胡蝶蘭の英語について

胡蝶蘭の英語名はひとつじゃない

原生種が発見された東南アジアを出発点として、今では広く世界中に根付いて愛される胡蝶蘭は、それぞれの国や地域で何とよばれているのでしょうか。
胡蝶蘭の英語名は、phalaenopsis(ファレノプシス)、あるいは phalaenopsis orchid(ファレノプシス オーキッド)です。
これは、胡蝶蘭の学術名であるPhalaenopsis aphrodite(ファレノプシス アフロディーテ)から転用された名称であることは一目瞭然ですね。
文字にするとphalaenopsis(ファレノプシス)ですが、英語圏の人などの実際の会話ではファレナープシと聞こえます。
apple(アップル)がアポーと聞こえるのと同じ感じです。

このphalaenopsisということばの成り立ちは、ギリシャ語のphalaena(ファラエナ)とopsis(オプシス)を組み合わせた合成語のようです。
Phalaenaとは「蛾」のこと、opsisとは「似た」のことですから、「蛾に似た」という意味であり、日本語名の胡蝶蘭とまったく同じ由来です。

また、英語を母国語とする人たちが実際に胡蝶蘭をよぶことばとしては、どちらかというとmothorchid(モス オーキッド)を使うことのほうが多いようです。
こちらも、mothとは蛾のことですから、「蛾の蘭」という意味であり由来は共通です。
1960年代の東宝の怪獣映画シリーズにモスラというのがいましたが、あれも蛾が巨大化した怪獣でした。

胡蝶蘭の学術名、phalaenopsis aphrodite(ファレノプシス アフロディーテ)のaphroditeとは、古代ギリシャの美と愛(エロス)の女神のことで、「イーリアス」にも登場していました。
文字ではaphrodite(アフロディーテ)ですが、英語圏の人が話すとアフラダイと聞こえます。

英語以外の外国語ではこうよばれている

それでは、英語圏以外の国々ではどのような名前でよばれているのでしょうか。
結論から申しますと、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、オランダ語など多くの言語で、いずれも英語と同じ「phalaenopsis」と書きます。
つまり、phalaenopsisは欧米言語圏では、共通語化しているというわけです。
フランス語では、orchidée phalaenopsis(オルキデ・ファレノプシス)とよばれて、高級品あつかいされています。
ドイツ語では、phalaenopsis orchidee(ファレノプシス・オルヒデー)で、高雅な稀少花として、好まれています。
イタリア語では、orchidea phalaenopsis(オルキデーア・ファレノプシス)といわれ、陽気な人たちの間でも人気の高いお花です。
スペイン語では、orquidea phalaenopsis(オルキデア・ファレノプシス)となり、情熱の国では人気とともに価格もこなれて大変普及しています。
オランダ語では、phalaenopsis orchidee」(ファレノプシス・オルヒデー)で、ドイツ語と同じになりますが、ドイツ以上にオランダは花の先進国ですから、胡蝶蘭も改良が進められセンスの良さが求められるようです。

それに対し漢字文化圏では、「胡蝶蘭」で共通しています。
厳密にいえば、中国語では「蝴蝶兰」(フゥー・ディエ・ラン)で、これは中華人民共和国でも台湾でも同じです。
「蝴蝶」は、「胡蝶」の「胡」に「虫へん」が付いただけなのですぐに理解できますが、「兰」のほうは単独で見ただけでは見当もつきかねますけれど「蘭」です。
日本語の胡蝶蘭という名称も、中国からの輸入品のようです。

英語での花言葉はどうなっている?

胡蝶蘭の英語での花言葉は、「lave(愛)」「beauty(美)」「luxury(贅沢)」「refinement(優雅)」です。
これは日本語での花言葉である、「幸せが飛んでくる」「純粋な愛」に似かよったものがあり、花の名前の由来とともに、世界中で同じ人間同士、類似の発想にゆきついてしまうことの証ともいえそうです。
もっとも、歴史的な背景を考慮すれば多分、日本語の花言葉は英語の花言葉をベースにして、あとから作られたものであるための結果であろうと、推測できます。
ただし、英語の花言葉が客観的で直截的であるのに対し、日本語の花言葉は主観的で情緒的です。
西洋と東洋が、まるで作為的にわかりやすく対置されているかのようですね。

理解をうながす意味で付け加えておきますと、広い意味での蘭つまりorchidの英語での花言葉は、「beautiful lady(美しい淑女)」「lave(愛)」「beauty(美)」「refinement(優雅)」なのです。
おわかりのように胡蝶蘭と比べて、「luxury(贅沢)」が「beautiful lady(美しい淑女)」に入れ替わるだけなのです。
また、それ以上に興味をそそられるのが、広い意味での蘭の日本語の花言葉が「美しい淑女」と「優雅」であるという事実です。
ここに至っては、類似の発想というよりも類型の拝借といったほうが似合いそうです。

海外での胡蝶蘭の人気

胡蝶蘭は、花姿は同じでも色味や模様に多様性があるため、楽しみ方に奥行きがでて飽きさせないことから、世界中で愛されています。
どの国においても、日本と同じように上質で華やかな高級花というイメージをともなっているため、大規模な公共施設や豪華なホテル、立派な歌劇場や高級商業施設で使われるほか、大切な記念のお祝いなどの贈り物として利用されています。
ただ、日本と比べてアメリカをはじめとするいくつかの国では、色味として白色よりも濃いめの色物が喜ばれ、模様もドットやストライプの入った変則柄が好まれる傾向にあるようです。

野生の熱帯蘭が最初に文明社会に持ち込まれたのは、1731年イギリスだったといわれています。
蘭の品種改良に挑んで研究を重ね、ついに人工交配による華麗な蘭の開花に世界ではじめて成功したのが、1856年イギリスのヴィーチ商会のドミニ―でした。
そのような誇らしい歴史をもつイギリスでは、胡蝶蘭が持ちこまれた時代から当時の王侯貴族に愛され、政治形態や栽培技術がいちじるしく発達した今も、広く国民から愛されています。

商品の流通量が、なんでもけた外れに大きなアメリカでは、高級品のイメージを維持しながらも、その対極のチープな胡蝶蘭もたくさん出まわっており、手に入れやすい状況です。
自家栽培用のごく小さな丈の小型花の胡蝶蘭が、一本立で販売されているなんてことは、アメリカでは普通の当たり前の光景になっています。

台湾、ベトナム、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシアなど東南アジアの国々では、もともと原生種発祥の地であり、現在も天然の蘭が豊富であることもあって、街中のあちこちで違和感なく胡蝶蘭が飾られているのに出会います。

中南米の各国では、胡蝶蘭こそシティホテルや大規模なミュージアムなどで見かけるくらいで、やや出会いが少ないようですが、じつは中南米の山地は天然の蘭の宝庫なのです。
愛好家垂涎の珍しい高山蘭などが、ひっそり咲いているといわれています。
ただし、当然園芸種ではない野生種ですから、場所を移して栽培しようとしても環境の変化に敏感で、育てることが困難と伝えられています。

海外での胡蝶蘭の価格

お祝いの贈り物としての胡蝶蘭価格を見てみますと、世界中でほぼ同様の習慣があるため、日本と海外での価格差はその他の物価の差とあまり変わらないといえます。
特に欧米では、大変高価な花として位置づけられており、日本と変わらない価格感です。
アジアの中では、中国と韓国は、日本とよく似た状況です。

ただし、台湾、ベトナム、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシアなど東南アジアの国々とオーストラリアでは、ちょっと事情がことなります。
これらの国々は、自国が胡蝶蘭の原生種、野生種を誇る国であり、現在の胡蝶蘭生産国でもあるわけですから、その豊富な生産力および生産量を背景に、低めに安定した価格を維持しているといえます。
これらの国々が現在、世界の最安値で胡蝶蘭が流通している地域かもしれません。

最初に日本に入ってきたのはどこの国の胡蝶蘭だった?

胡蝶蘭という名称は、中国からもたらされたという憶測ができることはすでに紹介しましたが、では肝腎の胡蝶蘭そのものはどこから持ち込まれたのでしょうか。
持ち込まれた時代については、明治時代だとしばしば語られるのですが、どの国から持ち込まれたかについては、あいまいなことが多いのが実情ではないでしょうか。

イギリスからという説が有力ですが、どの説明にも根拠や出典が示されていません。
しかし、時代的地理的な背景を整理してみますと、この説が多分正しいと思われまてきます。
19世紀後半といえば、欧州列強が覇権を競ってアジアに進出している時期であり、特にイギリスは中国をアヘンで籠絡し、鎖国政策をとっていた日本に興味を移していました。
そのイギリスこそ、胡蝶蘭がもっとも進化していた国だったのですから、政略的にもこの高価な花は利用価値が高かったろうことが、容易に推測できます。

もっとも、胡蝶蘭にこだわらず熱帯起源の洋蘭であれば、明治22年、福羽逸人子爵がフランス留学からの帰国時に、シンビジウムやオンシジウムを持ち帰ったという明確な記録が残されています。
イギリスから入ったとされる胡蝶蘭の、日本上陸の時期がこの明治22年よりも早かったのか遅かったのか、なんとも知的興趣をそそられるところです。
やがていつか、研究者の研鑽によってか、はたまた好事家の偶発事によってかしりませんが、このなぞが解き明かされるときが、訪れることでしょう。